『夫婦の会話』
ゆるやかに降り続く雨音が、室内の静寂を引き立てる。 イーリスの王城、王妃が住まう白金の間。 優雅な茶器か瀟洒なグラスの似合うテーブルの上には書類が広げられており、傍らの長椅子には、その一つ一つを示しながら話すこの国の王妃ルフレと、彼女の顔を見つめる聖王クロムの姿があった。 「――――の山賊討伐については…」 トントンと机を叩きながら言う。次の書類を手にとって言葉を続ける。 「国境警備の兵の任期切れと交代の派遣についてはフレデリクが――って、聞いてる？クロム」 質問も、相づちもなく静かな夫の方を振り向くと、 「――っ」 いきなり唇を重ねられた。 ルフレは驚いて逃れようとしたが、クロムの左手があたまの後ろに回され、右手が肩を掴んでいるためほとんど位置は変わらなかった。 ばさりと、卓の上から書類が滑り落ちる。 「んんっ、ん――」 薄く開いていた唇から強引にクロムの舌が侵入して、熱を込めて口腔内を蹂躙する。頭の芯がじんと痺れる感覚にルフレは耐え切れず瞳を閉じた。 「その話、明日ではいけないか？」 ようやくルフレを開放して（だが逃がさないように抱きしめたまま）間近で瞳を覗き込みながら真剣な口調でクロムが言う。 「駄目」 にべもなくルフレが返す。 「そう言って昨日も一昨日も、というかここしばらくずっと大事な相談ができてないんだけど。クロム、分かってる？」 「一日中執務室に軟禁されていて、ようやく開放されておまえと二人きりなのにまた仕事の話をされる俺の身にもなってくれ…」 「でもクロムとゆっくり話ができるのはこの時間しかないわけで」 「だから、どうしてその貴重な時間を政務の延長に使わなければならんのかと言っているんだ」 「だ、か、ら、…」 「聞かん」 「クロ…む、っん、――」 それ以上の反論を聞かずに済むように、クロムは再びルフレの唇を塞いだ。 2012.9.22〜2013.1.15まで拍手のお礼文だったものです。 ……甘いな。
2013/1/15
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