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＊ご注意＊
この先に置いてある文章には性描写が含まれます。 申し訳ありませんが、１５歳もしくは中学生以下の方は閲覧禁止とさせていただきます。 それ以上の年齢の方々は、自己責任でお願いします。 『彼の愛する金色』
イーリス聖王国の王城。広大な敷地の中に大小様々な建物が林立するその中心に位置する最も大きな建物。 謁見のための部屋や執務室、賓客をもてなすための間や晩餐などが開かれる広間などのあるその建物の最も奥まった一角にその部屋はあった。 王族のみが居住するその一角は、表向きの部屋部屋からは回廊を挟んで切り離された離れ小島のようになっていて、今もイーリス城で最も大きな広間で続けられているであろう宴の喧騒もここまでは届かず心地よい静寂に包まれていた。 回廊を渡って長い廊下を更に進んだ突き当たり、その右手にある扉をクロムはノックした。 その反対側、いまクロムが背にしている側にある部屋が、聖王代理を名乗るようになってから彼が寝起きしている部屋だった。 ――青銀の間。 イーリス聖王国の聖王が代々住まう部屋だ。 彼の姉であるエメリナがつい先だってまで使っていた部屋に寝起きをすることは痛みを伴う行為だったが、聖王を失った不安に揺れる城の人びとの心を安らげる為には必要なことと、無理に気持ちを割り切っていた。 その、向かいに位置する部屋。 青銀の間と対になる『白金』をその名に冠する間。イーリス聖王国の王妃のみが居住を許される部屋だ。 長らく主が不在であったこの部屋も、今日からはその役目を果たすことになる。 今日、この日に。王都の中央に位置する大聖堂で永遠を誓い合った彼の花嫁が夫となったひとの訪いを待っている筈だった。 かちゃりとノブが回されて、開いた扉から彼の新妻が顔を覗かせた。 「クロム…」 琥珀色の瞳が目上げてくるのに何故かクロムは狼狽えた。 「ルフレ…ええと、部屋に入っても構わないか？」 「うん。その。どうぞ」 そう答えるルフレの目じりがほんのりと朱に染まっている。身を預けるようにしていた扉から少し距離を取ると、大きく開けた扉の内にクロムを招き入れた。 ルフレは先程広間で身に着けていた夜会用のドレスから、色は同じく純白だがもっと柔らかで薄い素材が重ねられた夜着に着替えていた。湯あみを済ませたのだろう。白い肌はほんのり薄紅色に染まって、青みがかった黒髪は艶やかに彼女の肩甲骨の辺りまでを覆っている。 『花嫁はお支度がございますので』 と女官長に促されてクロムよりもずいぶん前に広間を後にしたのだから、ルフレが湯あみと着替えを済ませているのは当たり前なのだが。 そんなルフレの後ろ姿を見送りながら思わず赤面していたところを皆に(主にヴェイクに)からかわれたことを思いだし、クロムは口元に苦笑を浮かべた。 「なぁに、思いだし笑い？」 部屋に入った途端に脱ぎ捨てられたクロムの外套――深い紺色の厚手の生地に銀糸でイーリス聖王家の紋章が縫い取られている――を拾いあげて皺にならないようにたたんでいたルフレは、クロムのその笑みを見て面白そうにそう訊ねた。 「いや…やっと、おまえらしい顔になったな」 そんなルフレの笑顔を見てクロムは言った。 大聖堂の扉が開かれ、侍女たちに導かれて花嫁が入ってきた時。 時が止まったかのように。花嫁の姿を目にした人々の動きが完全に止まり大聖堂は水を打ったような静寂に包まれた。 神話にある暁の女神が降臨したかのようだった。もっとも、伝承にある女神の髪色は輝く黄金色で。花嫁の髪色は夜空を映したかのように艶やかな青みがかった黒髪ではあったが。 その髪は今は高く結い上げられて、そこに留められた薄いヴェールが花嫁の顔を隠していた。 ヴェールに隠されていても分かる目映いばかりの美貌。紅をはいた唇には淡い笑みを浮かべて。つつましく伏せられた瞳にかかる長いまつげが頬に影を落としている。 あくまでも優雅な歩調でゆっくりと祭壇へと進む花嫁が、聖堂中の人々の視線を一身に集めながらクロムの前にたどり着く。並んで司祭の前に佇む直前に琥珀色の瞳と視線が合うその瞬間まで、クロムですらこの花嫁が本当にルフレ自身であるのかと疑っていたほどに。彼女は花嫁として余りにも完璧でそして美しすぎた。 ――確かに、式の一ヶ月ほど前からマリアベルを教師に何やら特訓はしていたようだったが。 そんな短期間に身に着けたとは思えない、指先一つ、視線一つにまで意識が行き届いた流れるような所作だった。 その後、場所を王城に移しての祝賀の宴でもルフレは完璧な貴婦人を演じていた。 婚礼の儀で身に着けていた肌の露出が抑えられた、大きく広がるスカートの裾を後に長く引く最上級の礼装からは一段下がった、夜会向きのドレスを身に着けて。 花嫁の色である純白の生地には全体に鮮やかな金糸で刺繍が施され、上半身は身体に沿うように作られており、腰の辺りから裾に向けてごく自然に広がっている。何箇所かに寄せられたドレープがドレスに優雅な流れを作り、その流れに合わせて真珠が幾粒も縫い付けられていた。 聖堂では艶やかに結い上げられていた黒髪は、今はゆるやかに波打ちながら右肩から胸元に向かって流れ、そこにも幾筋も連なった真珠が煌いている。首に巻かれた飾りも同じく真珠で作られており、うなじで留められたその先が大きく開いたドレスの背中に連なって流れ、白い肌を飾っていた。むき出しの肩のなめらかなライン。手の甲から二の腕までを覆う白い手袋にはドレスと同じく金糸で刺繍が施されいた。 上品な笑みと深いアルトでゆったりと語る声音。 フェリアから王の名代として来ていたロンクーが思わず『本当にルフレか？』と訪ねた時にだけ見せた、いたずらっぽい光を浮かべた瞳と笑みと、いつもの調子で言われた『あたしがあたしでなかったら、一体誰に見えてるわけ？』というその言葉以外、ルフレの所作は完璧に抑制されて、いつもの彼女らしい部分は全く垣間見えなかった。 『おまえらしい顔になった』とクロムに言われたルフレは困ったように微笑んだ。 美しく化粧されていた顔も今は素顔で（それでも充分美しいとクロムは思うのだが）、艶やかに結い上げられていた髪も今は自然に背に流されている。 「せっかくマリアベルに特訓してもらっておいてあれなんだけど。やっぱり柄じゃないわよね…礼装も、礼儀作法も」 「いや。素晴らしく美しかったが」 「…ありがと。クロムにそう言ってもらうのが、なにより嬉しいわ」 そう言って、にっこり笑う。 「…美しかったが。完璧な貴婦人の笑みよりも、今のお前の笑顔の方がどうやら俺は好きなようだ」 その言葉にルフレはぽかんと口を開けたまま黙ってしまった。少し遅れてぽ、と頬が朱に染まる。 イーリス聖王国を勝利に導いた軍師、英雄と称されても。所詮は素性の知れない女である自分を正妻に迎えようというクロムに対する反対の声はやはり城内にあり。国民の中にもルフレのことを良く思わない声は僅かながらあった。 そんなクロムの判断が間違ったものだと、聖王代理には相応しくないと言わせたくなくて。せめて、人々が思い描くような完璧な花嫁を演じれば反対派の声も少しは抑えられるのではないかと考えてマリアベルに教えを請うた。 一月の間に詰め込んだ持てる限りの力を尽くして――まるで戦場に赴くような心地で――今日という日を迎えたが、実際、所作一つであんなに周囲の見る目が変わるものだとは、と。ルフレ自身が一番驚いていた。 頭でそう判断して実行し、また実際に効果はあったようなのだが（本当の結果はこれから先何年もしなければ分からないだろうが…）そのこととルフレの気持ちとはやはり別で。 反対派の貴族達はともかくとして多くの民を騙したという自責の念に少なからず落ち込んでいたのだった。 ルフレの気持ちを見透かしたようなクロムの台詞に泣きそうになるのをぐ、と堪える。 そんなルフレの頬を包み込むようにして、口付けを落とそうとしていたクロムの空色の瞳を見返しながら、至近距離でルフレは言った。 「クロム、あのね。どうしても先に言っておきたいことがあるんだけど」 そう言われ、クロムの顔がルフレから少し離れる。 「なんだ？」 優しい声音がそう聞いた。 「さっき侍女たちに仕度を手伝われながらぼんやり考えていたんだけど…あたし、クロムに拾われる以前の記憶がないじゃない」 「ああ。知っている」 「だからね…」 言いにくそうに視線が彷徨ったが決心したのだろう、再びクロムの瞳を見つめると、言った。 「記憶をなくす前のあたしには、伴侶がいた可能性があるなと思って」 婚礼の夜に花嫁が口にするのには余りに相応しくないその言葉に、クロムが絶句しているのに気づかずルフレが続ける。 「もう神さまの前で誓っちゃったのに、今更だとは思うんだけど。それらしい指輪とかも身につけてなかったんだから、可能性は低いとは思うけど。でももしそうだとしたらやっぱりクロムや皆やイーリスの民に嘘をついたことになってしまう訳で…て、きゃあ！」 言い終わらぬ内にクロムに不意に抱き上げられて、ルフレが小さく悲鳴を上げた。 膝と腰を支えるようにして向かい合わせに抱き上げられたせいでどこに運ばれているのか分からなかったが、程なくして座らされたのは寝台の上だった。 「おまえは…時々とんでもないことを言うやつだとは思っていたが」 両手で包み込むようにしたルフレの顔を上向かせて、その顔を覗き込むようにしながらクロムが言う。 「だって。可能性として…」 「もしその可能性があったとしてだ、過去のおまえの伴侶とやらを俺が見つけ出さないよう祈ることだな」 もし、本当にそんな男が居るとして。実際に顔を合わせたならその相手に何をしてしまうか。平静でいられる自信がクロムにはなかった。 きょとんと目を見張るルフレ。クロムが言った意味が分かっていないようだ。 「第一、だ。そんなに悩まなくてもすぐに分かることだろうが」 顔を近づけて、こつんと額を合わせながらそう言った。 「………え。どうして分かるの？」 しばし黙って見つめ合う。 ――本当に分かっていないのか？ そう考えながらクロムは気づいた。 彼が生まれ育った王宮という場所の特殊さに。ましてイーリス聖王家はその血を次代に継ぐことを何よりも尊んでいるといってもおかしくない家なのだ。 幼少時から施された教育の中には当然その方面の知識も多く含まれていて、皆がそのようにして学んできたものと思い込んでいたクロムだったが。 ――あれだけの書物を読んでいても、抜け落ちている知識というのがあるものなんだな。 妙なことに納得しながらゆっくりと、ルフレを寝台に押し倒した。 「あの…クロム？」 「いいから、少し黙っていろ」 そう言うと、もうそれ以上ルフレが言葉を紡がぬよう、その唇を塞ぐように口付けた。 「――っ、ん、ふっ」 ルフレの歯列を割るようにして入ってきたクロムの舌がルフレのそれを捕らえ、絡め、吸い上げる。 想いが通じ合ってから、幾度となく交わされた触れるだけの口づけとは明らかに違う熱を持ったそれには、クロムがこれまでは抑えていた熱情が込められて。ルフレは戸惑いながらもそれを受け入れた。 角度を変えて何度も交わされる口づけの間に、クロムがルフレの夜着の前を器用にはだけていく。透けるように白い肌。ほっそりとした肢体と意外なほど豊かな胸元が露になる。 こちらを見つめるクロムの視線にルフレの白い肌が羞恥に染まる。 「あの、ね…クロム」 「なんだ、ルフレ」 答えるクロムの瞳は深い青色に染まって。抑えきれぬ熱情の焔を灯している。 「その…こういう時って、明かりを消したりとか…するものじゃないの？」 「何故だ？」 「え…それは。あたしが恥ずかしいから」 「駄目だ」 「え」 まさか却下されると思っていなかったのだろう。戸惑ったようなルフレの声。 「おまえのその、恥じらう顔も、姿も。ちゃんと見ておきたいからな」 「なっ！――あっ」 それ以上の反論は聞かないという宣言なのか、ルフレの首筋に噛みつくようにクロムが口づけを与える。ルフレの華奢な肢体がびくんと跳ねた。 出来るだけ大切に扱おう、と。そう思っていたのは嘘ではない。 薄い夜着の下から露になった白い肌が羞恥に染まった時も、初めての痛みに耐えるその表情にも、時おり漏れる甘いあえぎにも。 必死にかき集めた理性を使って自分を保っていたというのに。 熱に浮かされたような表情で自分を見上げる潤んだ瞳に宿る金の輝き。今までにも幾度か目にしたことがある――戦場を見つめる瞳や、感情を昂らせた瞳に宿る金色とは異なる。見るものの理性を残らず溶かし尽くす蠱惑的な蜜のような黄金色に見つめられて。 「クロ、ム…？」 いつも耳にしている強い理性と知性を感じさせる声音とは違う、弱々しく甘い声で名を呼ばれて。 僅かに残していた理性も吹き飛んだ。 気づくと細い腰を強引に抱き寄せて、高く上がる嬌声にも構わず昂る劣情を何度もぶつけていた。 無意識に逃れようとする肢体をかき抱いて、半ば悲鳴のように上がる嬌声に更に煽られて、ぐったりと気を失うようにして眠るルフレを開放した時には東の空がうっすら白んでいた。 いつの間にか眠りについていたクロムが目覚めると、腕の中にしっかりと抱き込んだルフレの寝顔が目の前にあった。 起こさないようにそっと、額にかかる前髪をかき分けてやる。 その首筋に、胸元に、そして背中に――全身に散った紅い痕を目にしてクロムは軽く自己嫌悪に陥った。 申し訳なさと愛しさをないまぜにした気持ちを込めて、そっとルフレの額に口づけた。 「――ん…」 長いまつげが震え、ゆっくりとルフレが目を開けた。 目の前にあるクロムの顔をしばらくぼんやりと見つめる。 その瞳の色が常と同じ琥珀色であることをクロムは残念に思うと共にほっとしてもいた。今あの金色に見つめられたら再び理性を手放してしまいそうだったからだ。 「クロム…？」 圧倒的に睡眠が足りないのだろう。ルフレはまだ状況を理解できていない。 クロムもはじめて目にする無防備な表情に、いつもの彼女がどれほど気を張って多くの思考を巡らせていたのかに思い至る。 「おはよう。ルフレ」 「どうしてクロムが……え？」 そこで、自身もクロムも一糸まとわぬ姿であることにぼんやりと気づき、次の瞬間にはいつものルフレの表情に戻って、次いで赤面した。 「ははは…身体は大丈夫か？」 その様子に思わず笑い声を漏らしたが、優しい口調でそう続けた。 「……………」 「ルフレ？」 いつまでも無言のままのルフレの顔を覗き込むと、恨みがましい視線とぶつかった。 「全身がぎしぎし痛いし、辛いし……クロムの奥さんになるのって、大変だわ」 「す、すまん。その…途中から抑えが利かなくなって、だな」 慌てたように謝るクロムの様子に耐えかねて、くすくすとルフレが笑いだした。 「大丈夫よ。確かに身体はしんどいんだけど…その、幸せだから。クロムにたくさん愛されてるって、全身で感じられたから」 「っ、ルフレ」 折れそうに細い肢体をぎゅ、と抱きしめる。 「ルフレ、愛している」 「ん。あたしも、愛してる。大好きよ、クロム」 その琥珀色と空色の視線が合わさり、甘い口づけが交わされた。 「ただ出来るなら、次からはもう少し加減して欲しいなと…」 「ああ。努力はしよう」 さりげなく体勢を入れ替えて、両腕の間にルフレを見下ろす形でクロムは言った。 その瞳に蒼い焔が宿るのを見とめて、慌てたようにルフレが言った。 「く、クロム！あの、なに、しようとしてるの…かしら？」 「あまえがあんまり可愛いから、昨夜の続きを」 「でももうあんなに日も高いし、起きないと――んっ」 ルフレの言葉をクロムの口づけが塞いだ。 「煽るおまえが悪い」 「そんな。っあ、…や」 噛み付くように、昨夜はじめに付けた紅い痕の上にクロムが口づける。 まもなく何も考えられなくなるだろう頭の片隅で、今日の予定を明日以降にどう振り分けるのが最適か、急いでルフレは考えた。 その全てをクロムがあらかじめキャンセルしていたことなど知らずに。 7/7〜7/14まで拍手文だったものを加筆しました。 翌朝部分を書き足してたらクロム様が突如回想を始め…降参してR指定にした次第です。 あ〜あ…R指定、私基準なので。少年ジャ○プ〜少女コ○ック程度、なら【R15】くらいで良いのかなという判断。
2012/7/14
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