『おかえり』










「身体は、なんともないのか？」
すっかりと元の、ギムレーと共に消滅したあの時まで長く伸ばし続けていたその長さに戻った黒髪に指を滑らせながらクロムが問うた。剣を握る者の武骨な指先を、青みがかった黒の流れがさらりと滑ると微かに甘い香りがした。
ペレジアの王城の地下で、祭壇にある玉をルフレが壊して。力の奔流が祭壇の間を駆け抜けた、その直後のことだった。
「ええ。むしろ、記憶と器が綺麗に沿ってすっきりしたぐらい」
何故、本来の姿を取り戻したのかはルフレにも――サーリャやヘンリーにも判然としないらしい。解放された力の影響なのだろうと、そうとしか説明できないようだった。

ふ、とルフレが曖昧な笑みを浮かべる。
「気持ち悪いでしょ？こんな風に簡単に外見が変わるなんて」
「いや。むしろ安心した」
なんのてらいもなくそういうクロムに、ルフレがぽかんと目を見張る。
「さっきまでの少女の姿のおまえでは、こちらが何やら悪さをしている気になってくるからな」
「……………クロム」
「なんだ？」
「さらりと問題発言をしたけど、聞き流した方が良いのかしら」
「俺はなにかおかしなことを言ったか？」
「ううん。自覚がないなら、良いわ」
「そうか」
その言葉とともにルフレはふわりと抱き締められた。
途端に気持ちがなだらかになる。ふ、と息を吐くと日向の匂いがして。心地よさに涙が滲んだ。
「ああ、いつもの、おまえだな」
しみじみとクロムが言うのに思わず苦笑が漏れる。一体なにをもって『いつもの』かを確かめたのか。突っ込んで良いものかと迷い、やめた。
「おかえり、ルフレ」
「――ただいま、クロム」
かけられた暖かな言葉にただそう返した。






--END--


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すっかりと書き忘れていた、見掛けが一気に成長したルフレさんとぜんぜん気にしてないクロム様の会話。

2012/10/6