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『熱』
抱かれるのは嫌いじゃない。 幾度も確かめるように肌を這う指の感触も、啄むだけのキスも、心地いいばかり。 じわじわと身体が熱を持つ。じれったい。もっと急いでも構わないのに。 息を吐きたまえ、と言われてその通りにする。なにをされるかが分かっているせいで上手く力が抜けない。深く口づけられる。開いたままの唇から舌が侵入する。息をするどころではなくなる。酸欠と快感でくらくらする。 ああ。 充足感が訪れる。安堵の息を吐くと見計らったように突き上げられる。 「――っ、あ」 「きついな」 余計なお世話だ。 聞こえた筈がないのにメフィストが笑う。顔に出ていたかな。 とっとと動け、という意志を籠めて腰を動かす。メフィストの眉がかすかに寄る。 余裕をなくしたこいつの顔を見るのが好きだ。いま自分がどんな顔をしているかなど考えたくもないが。 抽挿が再開される。奥の好いところを何度も責められる。 「あ、は、っん」 自分の声がきもちわるい。抑えきれない。 どうしてこんなことをしているんだっけ。そう、久しぶりに会ったから、なんとなくそんな雰囲気になったのだ。キスだけの筈が止まらなくなって。 恋人同士なんだから、なにもおかしなことはないのだけれど。 「そろそろ集中したまえ」 バレている。 「歯止めが利かなくなる」 「望むところだが」 「僕よりも遥かに忙しい人間が軽はずみに言っていい台詞じゃないな」 「君以上に優先すべきものなどないよ」 「ピロートークをどうも」 「本心だが」 「はいはい――……っ、」 不意に奥を抉られて息が詰まる。 「私の想いを疑うのかね」 「日頃の行い」 この体制で喧嘩は分が悪い。 腕を伸ばす。頭をつかんで引き寄せる。噛みつく勢いでキスをする。 「話はあとで」 何か言う前に急いで唇を重ねる。 深く繋がっている。多幸感に目眩がする。明日の予定もなにもかも、一瞬でどうでもよくなる。結局メフィストの思い通りだ。仕方ない。惚れた弱味というやつだ。 途切れ途切れになる意識の端で、愛している、と聞こえた気がした。 返事は明日の朝してやろう。
--完--
2018/10/23 pixiv初出
最中に考え事してるのが好き。 |